第7章 春 二十日目
俺がこの村に引っ越してきてから、住人からの当たりが冷ややか。俺の気のせいではないはず。理由?それは村の住人からの、俺に対する視線が冷たいから。それも、男女・年齢関係なく。
声を掛ければ、対応はしてくれる。しかし、俺に向ける視線は好意的ではないのがヒシヒシと伝わって来る。住人全てって言う訳ではないものの、今、目の前に手紙を配達して来たフルーはそれが顕著だった。
顔は人懐っこそうな表情だ。でも、目は全然笑っていない。一体、俺が何をしたって言うんだ。そして、その理由が明確に分かったのはストーンの店を訪ねた事で否応なく理解させられた。
「ストーン、いるか?」
「あぁ、トーヤか。」
こいつは、普段と同じ俺に対して嫌悪感も不信感も露わにしない。
「何だよ、品揃え悪いな。」
店に並ぶ品を見て、俺は眉を潜めてそう言った。
「お前のせいだろうが。」
「はっ?お前の店の品揃えが悪いのを、俺のせいにするのは可笑しいだろ。」
「いいや、お前の責任だ。」
断定した物言いに、俺はその理由を尋ねた。
「どういう意味だ?」
「ウチに卸してくれる大得意様は、お前がこっぴどくフッたサクラだからだ。」
「サクラって、あの?」
「そうだ。あのサクラだ。」
「サクラって、農場やってんだよな?」
「仕事の合い間に採掘もやってる。お前が、町で賞を取った時のあの鉱石を採掘したのもサクラだ。」
「えっ・・・?」
あの鉱石は、最高級にいい鉱石だった。それもあって、俺はコンクールで賞を取れたと言っても過言ではない。
「少なからずトーヤの事情を、俺は知っている。だったら、尚更、あんな言い方をするべきじゃなかった。あの日から、サクラは村に出て来ていない。」
「家で引き籠ってんのか?」
「仕事は畑を見ればやっているのは分かる。気になった住人が何度か様子を見に行ったが、誰も姿を見ていない。俺も行ったが、幾ら声を掛けても家から出て来なかった。」
そう言われると、少し罪悪感を覚える。そして、その罪悪感は、次のストーンの言葉によって頭を抱えることになった。
「一つ、教えておいてやる。俺が以前、サクラに聞いたことがある。どうして、毎日採掘に行くのかって。サクラは、惚れた相手が宝飾職人なのだと言った。そして、ブレスレットを見せてくれた。トーヤ、お前が家紋に使っている紋章があったよ。」