第6章 春 十五日目
ソワソワしながら畑仕事を行って、出荷も勿論完了。
「ヨシッ、一先ずこれでいいや。早速、行ってみよう。」
向かった先は、推しが引っ越して来る工房だ。この日が来るのを待っていた。指折り数えて待ちわびていた。
工房に到着すると、玄関ドアが開いて中から人が出て来た。
「こ、こんにちは。ストーンさん。」
「ん?あぁ、サクラか。今日も元気だな。あ、そうだ。紹介しておこう。この工房に引っ越してきたヤツがいるんだ。おーいっ、ちょっと出て来てくれ。」
中から出て来たのは、見間違えることのない私の推し。一見優男だけど、キアンさんと同じ細マッチョ。涼し気な切れ長の目に、淡い栗色の髪を一つに束ねた姿。ゲームと同じ容姿をした私の推しがいた。
「サクラ、こいつが引っ越してきた宝飾職人のトーヤだ。トーヤ、こっちが村で農場をやっているサクラだ。」
「あぁ、トーヤだ。よろしく。」
CVも同じだっ!!大興奮の私は、推しに向かってこんなことを言ってしまった。
「好きです、大好きです。本当に大好きなんです!!」
推しは面食らった顔をしていたけれど、年上の余裕からか私の頭を撫で、こう返した。
「俺みたいなおじさんに言うセリフじゃねぇな。子供(ガキ)は子供らしく、同世代と仲良くしろ。」
私の高揚した表情が、一瞬で抜け落ちた瞬間だった。
(子供は子供らしく・・・)
「おい、トーヤ。それは言い過ぎだろ。サクラもトーヤの言ったことは気にするな。」
「・・・帰ります。」
何やら背後から声が聞こえた気がしたけれど、私は振り返る勇気はなかった。家に帰るなり、大号泣。泣き疲れたまま、寝てしまったらしい。
それでも、さっきのことを思い出して涙が浮かぶ。
この時に、あの先輩の言葉を思い出していた。
「作り物か・・・。あ、もうこんな時間。ここ数年で初めてだなぁ。採掘に行かなかったのは。でも、もう・・・いいや。」
推しに会って、浮かれすぎてしまった結果がこれだ。推しは三十一歳。そんな人から見れば、私は子供扱いなのかもしれない。
「ノアさんみたいな人だったら、受け入れられたのかな・・・。うううっ・・・。」
ヨロヨロと起き上がっては、ポストへと向かう。この作業だけは、やっておかないといけない。
メモを広げれば、そのメモに涙が落ちていく。