第1章 牧場物語の世界へ
私の名前は、江口 桜。今年で、社会人として三年目の二十三歳。職場は自然とはかけ離れたものだったけれど、それでも毎日を頑張っていたんだ。
ゲーム?勿論、今でも楽しんでいる。だって、現実逃避出来るしゲームの世界では自然に触れられるから。何故、ここまでハマったのか。それは、住人となる宝飾職人のキャラが大好きだったのも理由の一つ。
一年目の春の十五日目に、町から引っ越してくるトーヤという職人さんだ。CV(キャラクターボイス)も大好きで、容姿も私の好みだった。だから、現実でもそのキャラに似た人とお付き合いしたいなぁなんて思っていたんだ。
さて、今日は職場の歓送迎会の日。頻繁に行われる飲み会ではないものの、私はこういう会が得意ではなかった。理由?それは、半年前から絡んでくる同僚の先輩がいるから。
この先輩も、半年前に急に転勤で他所の支店から移動してきた人だ。それまでは、私もこういう会が今ほど苦手ではなかった。先輩は口を開けば、悪態をついてくる。私を嫌いなら近付いて来なければいいのにと思うのに、いつもこういう会では私の近くに存在しているんだ。
酔えば何言っても許されるとでも思っているのか、他の先輩たちが窘めてくれるのを無視してしつこく絡んでくる。でも、今回の歓送迎会は少し違った。
たぶん、他の先輩たちが気を使ってくれたのか、今回私たちの支店に転勤して来た人と転勤して行く人の直ぐ傍に席を勧められた。
お酒は・・・たぶん、両親から受け継いだのか酒豪の家系で、楽しい時間を過ごす事が出来ている。実際、私自身がどれだけ飲めるのか限界に挑戦したことはないけれど。
それでも、飲み過ぎたのかお手洗いへと行き、再び部屋に戻る時に目の前に現れたのはあの人だった。生憎、周りに人はいない。
「おい、江口。今日は随分調子に乗ってることないか?女のくせに場を弁えずにガバガバ飲んで、見苦しいったらありゃしない。」
そう言えば、この人下戸だったな。自分が飲めないからって、こんな風に絡んで来られても。
「・・・分かりました。この後は控えます。」
「それでいいんだよ。お前は俺の言うことさえ聞いていればいい。そうしたら、俺がお前と付き合ってやるのも吝かではないから。」
えっ?今、何か不穏な言葉が聞こえた気がする。気のせいじゃない・・・はず。