第4章 春 五日目
「う~ん、五杯目からは覚えてない。」
「今ので八杯目。はい、お待たせ。ビーフシチューセット。」
「ありがとうございます、ローエンさん。いただきます。」
匂いと見た目に釣られて、直ぐに口に入れた私。
「美味しっ、すっごく美味しいっ!!」
「サクラはいつも美味そうにウチの料理を食べてくれるよな。まぁ、ゆっくりしていってくれ。」
大盛りのビーフシチューが面白い様に減っていく。
「サクラ、私に一杯付き合わない?」
「ノアは、もうダメだ。後は果実水でも飲んでおけよ。ホラ。」
ローエンさんが、ノアさんに果実水の入った飲み物を渡している。そう言えば、ゲームではこの二人が結婚するんだった。今でも気安い関係みたいだし、ゲーム通りになるのかなぁ。ノアさんも文句を言いながら、果実水受け取っているし。
「そうだ、サクラさん。先日のミルククリームありがとうございました。おかげで凄く美味しいクリームパンを作ることが出来ました。」
「それは良かったです。」
「何それ~。じゃあ、私はワイン頼みたい。味は~、林檎がいい。頼んだよ~。」
隣りでフルーさんが、ノアさんの要望をメモに書いている。
「お~、気が利くじゃない~。じゃあ、サクラよろしくね~。」
「明日、用意しておきます。でも、飲みすぎはダメですよ?」
「アハハ、サクラってお母さんみたい~。」
もうかなり出来上がっているらしいノアさんは、陽気に笑っている。私はフルーさんと見合わせて、思わず苦笑い。
「ノア、そろそろ帰れ。送ってやるから。」
目の前でしゃがんだローエンさんの背中に、躊躇なく身を預けたノアさん。慣れたようにお店から運ばれて行った。そう言えば、紫陽花亭の隣りが、医院だった気がする。
「ローエンさん、面倒見がいいですね。」
「そうですね。」
「惚れた弱みなのかなぁ・・・。」
「えっ?そ、そうなの?」
「見ていれば分かりますよ。それと、サクラさん?貴女の方が年上なんですから、僕に敬語は不要です。ずっと言いたかったんですよ。何か、他人行儀で寂しいなぁって思っていました。それと、僕のことはフルーでいいですから。」
これも親密度の恩恵?だったら・・・。
「うん、分かった。でも、フルーももっと砕けた口調でいいからね?」
「は、うん。」
フルーの笑顔が眩しい。さて、そろそろ家に帰ろう。