第1章 君と俺の好きな人(赤葦)
2人になれれば、何処でもいい。朝持ったままの鍵で扉を開き、彼女を引き連れたまま入って後ろ手に鍵を掛けておく。逃げられないように。
「赤葦先輩…?」
「これで逃げられないよ。」
「へ?わっ…!」
後ずさり、躓いたは部室の床へ尻餅をついた。ああ、少し怯えてる。背筋がゾクリと震える気がした。戸惑うの前に屈みこみ細い手首を掴む。
「…なんで直ぐに断らなかったの?」
「あ…あんなに押されたの初めてで、どうしていいか分からなくて…。」
「へえ…じゃあ俺が助けなかったらあの男とデートする気だった?」
「それで諦めてくれるなら、って思って…。」
ムシャクシャする。それであの男が本気で諦めると思ってるのか。
「…もう少し危機感持って。」
「ごめん、なさい…。」
彼女の眦に浮かぶ涙。…こんな顔、させたかったんじゃない。寧ろこの子が泣く顔なんて見たくない。本当は分かってるんだよな、何でイライラするかなんて。
掴んだままの手首を力任せに引き寄せる。抱き締めた身体は、とても小さい。
「…ごめん、怒ってるわけじゃないから。泣かないで。」
「あかっ、赤葦せんぱ…!」
「ねえ、の好きな人って誰?」
「え!?」
「俺は一回も君の口から聞いてない。何時も傍に来るのはなんで?教えてよ。」
片腕で腰を抱いたまま頬に手を添えるとさっきまで泣きそうだった顔は一瞬でリンゴのように真っ赤になった。逡巡する視線。そして数秒の間を置いてゆっくりと唇が開いた。
「赤葦、先輩が…好き、です。」
「よく言えました。」
「あっ、赤葦先輩は!?私の事好きですか!?」
「好きだよ。多分結構前から。そうじゃなければわざわざ探さないし助けない。」
ぱあ、とまるで弾けるような笑顔を浮かべた。可愛いな。素直な所は木兎さんと少し似てるかもしれない。
「赤葦先輩、ちゅーしてください!」
「うん、お昼終わるからまたね。」
「意地悪!!」
「そうかな?」
好きな子は、やっぱり少し意地悪したくなるものだと思うよ。
*君と俺の好きな人*