第1章 放置プレイはほどほどに
こんのすけに蹴りを入れられ、そのまま座敷のふすまをぶち破ると、中からゴリ……ゴリ……と何かをすりつぶす音が聞こえてきた。
それは例えるなら骨の様な固い物を、無理やり石ですりつぶすような音だ。
そしてその闇の奥からキラリ、と一筋の光が輝いた。
その様子に腰を抜かした朔夜は、四つん這いの姿勢のまま力の限り後ずさった。
「だめ、だめだめ、無理!誰か助けて、殺される!」
「……誰だ?えらく騒がしいな」
部屋の奥から声がして、朔夜は思わず口を手で覆った。
正直に申します、おちっこチビリそうになりました。それくらい怖いってことです!!
そうこうしている内に、部屋の隅から黒い物体が、むくっと立ち上がり、ゆっくりこちらに近づいてくる。
そうするともう頭の中はパニックで冷静な判断なんて出来ない。
これは何だ?報いか?罰か?審神者として世界を救うなんて大業に疲れて、一般ピーポーとして楽して生きようとした私への罰なのか!?
「あああああぁ、ごめんなさい神様仏様こんのすけ様ぁーー。来世では人に迷惑を掛けず真面目に働きますからどうか命だけはぁーーー!!!」
「――ん?もしかして、大将?」
「は……はひ?は、はい」
確かに聞き覚えのある声がして、朔夜は後ずさるのを止めた。この本丸で、主である朔夜のことを大将と呼ぶのは4人。
その中でも特に闇に溶け込む、この落ち着いた声は――薬研!?
「うわあああぁぁ、薬研ーーっ!!」
「うわっ!!」
不安から一転、安堵感と懐かしさで朔夜は暗がりの中、薬研と思わしきものに飛びついた――ら、勢い余って押し倒してしまった。
その拍子に、朔夜は薬研の体が妙に硬い事に気づいた。いや、ごつごつしていると言うか……なんか骨ばってる。
「いててて、いきなりご挨拶だな。大将」
「薬研、なんか痩せた?ちゃんと食べてる?」
「あ?いや、この2日くらい碌に食ってないが……まあいい、とにかく皆を呼んでくる」
そう言って、薬研は朔夜の腕の中からするりと抜けて、暗い部屋を横切ってどこかへ行ってしまった。