第5章 空、覚えていますか?
「――それではお二人とも、ごゆるりと」
そう言ってこんのすけは奥座敷の襖を閉めた。その時、同時に何かが動く気配がした。
「……あのクソ子ぎつね、いつか覚えてろ」
「うわっ、朔夜!?いつから気づいてたの!?」
てっきり熱で「ばたんきゅ~」状態だと思っていた朔夜が、こんのすけへの恨みだけで意識を取り戻した。
でもこんのすけの言う通り、体調が最悪なのも本当で、肘をついて身体を起こすのが精一杯。とてもじゃないが起き上がるだけの体力がない様で、依然ぐったりしている。
「で、どうするの、朔夜?」
「どうするもこうするも、やる事は1つでしょ」
朔夜の言葉に迷いはなかった。もう腹はくくったらしい。それなら俺も――って思っていたら、朔夜がある作戦を切り出した。
「まず清光がふんどし一丁で背を向けて横になる。そしたらセクハラ宜しく、その後ろから裸の私が抱きしめる。名付けて夢の抱き枕作戦!」
「って……えっ!?セクハラ受けるのって俺なの!?朔夜は!?っていうか抱きしめるだけ!?」
「前にこんのすけが言ってたじゃん、素肌を重ねるだけでも良いって」
「そんな事――」
~お忘れの加州清光くんと、皆様の為に~
第2章【いい湯だな、あははん】より
(中略)――他にも重ねる素肌の面積が多ければ多いほど、霊力の回復が早いです。(原文ママ)
「――言ってたな……」
「でしょ?それなのにあのクソ子ぎつね。人の貞操をジャンケンで決めようとしやがって……」
いつか鍋にして食ってやる。と、復讐に燃える朔夜の隣で、清光はホッと胸をなでおろしていた。
良かった。取りあえず朔夜の作戦なら本番はなさそうだ。――っていうか、素肌を重ねるって事は、朔夜もやっぱり着物を脱ぐんだよな。
つまり背中に当たるのか、朔夜の、む……胸、とか……。
なんて考えている間に、朔夜はなんとか気合で上体を起こして、隣で着物の帯をほどき始めていた。
流石は付喪神と言えど5人の少年達に交じって風呂に入る女。恥とか外聞とかがちょっと桁外れだ。
「ヘイ、清光もカモン」
「お前……女としての恥じらいとか無いの?」
「昔はあったんだけどねー」
ほらほら、と急かされ清光も着物の帯をほどいた。