第5章 空、覚えていますか?
まあ考えてみれば上半身だけなら風呂の時に嫌って言うほど見せてるし、今更照れるほどの事でもない。
あとは横になるだけ――と思っていたら、着物を脱いでいた朔夜がフラッと布団の上に倒れた。清光は慌てて朔夜を抱き起こした。
「朔夜!?」
「ごめん、清光……。頑張ったんだけど、私もう限界っぽい。悪いけど計画変更、清光が……抱きしめて」
最後の言葉に不覚にも清光の下半身が反応した。いやいや今は猛ってる時じゃないだろう。こんな時は近藤局長の糞さぶいダジャレでも思い出して気を静めるんだ。
(ふとんがふっとんだ、ふとんがふっとんだ、ふとんがふっとんだ――よし!)
どうにか落ち着きを取り戻すと、清光は極力ゆっくりと後ろから抱きしめた。その身体は熱く、息も苦しそうだ。
こんなになるまで気づかなかったなんて――朔夜の事は、自分が一番近くで見てきたと思っていたのに……。
「……清光?」
「朔夜?大丈夫?」
「うん、清光の体、冷たくて気持ちいい」
お願いだからこんな体制で「気持ちいい」とか言わないで欲しい。そんな清光の心中など知らず、朔夜は夢心地でぽつりぽつりと語りだした。
「なんかこうしてると、本丸に来たばかりの頃を思い出すねー」
「そうかー?」
「広い本丸に、清光と二人っきりでさ。天守閣とか、無駄に登って大はしゃぎして……」
「あー、朔夜のテンションの高さは昔からだったなー」
「なのに……ごめんね、清光」
「……朔夜?」
気が付くと、朔夜の寝息が規則正しいものに変わっていた。体はまだ熱いが、少しは余分だった霊力を吸収して状態が安定してきたのだろう。
「あやまんなよ、俺は朔夜が相手なら、どんな事だって耐えて見せるから」
昔も、今も、これからだって、ずっと――。
清光は朔夜の首筋に顔をうずめると、軽く舌を這わせ強く吸い付いた。
――小一時間後。
「復っ活ーーー!!!皆の衆、心配をかけたな!」
「わーい、あるじさまがげんきになったー!」
計画は上手く行き、朔夜はいつもの騒がしさを取り戻した。
そしてこの後、薬研が何気なく朔夜の首筋に付けられた痕に気づき、本丸はいつも以上の騒ぎを見せるのだが……それはまた、別のお話しである。