第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】
手を引かれて、ドアの前。
ここが彼の部屋らしい。
このうるさい心臓と
熱い眼差しの奥、伝わる強く握られた腕に感じる強さと早い鼓動。
溢れる感情とは対照的に、目の前の背中が手を差し伸べて欲しいと言ってるようだった。
鍵が開いて、戸が開くと中に押し込まれて
また強く抱き締められる。
わたしが
わたしの筆が、この人の孤独や後悔、自責の念を解き放ったのなら、喜んで甘やかしたいって思う。
暖かい...
涙が頬を伝うのはどうして?
抱きしめ返した時に体で感じた熱も強さも
強引ながらどこか優しい手つきも
今まで感じてきたこの人らしいと思えたから
どこまでも堕ちていいとすら思った。
顔を上げて視界を占めるのは
身を焦がしそうなほどの眼差し
甘え縋る手や眼差しに
この人の孤独に触れた気がして
その頸に腕を回して口づける。
シャツの下に這う手
何度も重ねられる唇で
脳が解けてしまいそうなほどに熱い
背中でぷつっと外れた感触
深いところまで触れたい欲はお互い様。
後頭部を抑えられて
唇を割り入る熱い舌にただ翻弄されて
胸元を包み与えられる刺激でもっと欲しくなる。
力が抜けそうになるのを
その頸に回した腕でしかみつく。
隔たる布はすでに邪魔なだけ。
ふと離された瞬間、シャツを背伸びするように脱ぎ捨てて
もう作品ではない一人の人の整った体躯が綺麗だと見惚れた。
聞かなくても、その見えた体躯を縛るタトゥーは過去の罪の懺悔のようなものだと思う。
あの事務所のモデルだからとか、
そういうことで分かったんじゃない。
そこから訴えかけてくる苦しみや孤独みたいなものが
救いを求めながらこの人を傷つけてる
ふと見上げては、懇願とかに似た眼差しを向けられている。
ひとつひとつの藍色の線
口づけて舌でなぞり
「もういいの…」
…苦しまなくて。
また目が合った瞬間、横向きに抱かれてどこかに連れていかれる。
背中にスプリングのはずみ。
覆いかぶさって見下ろしてくる目は少し充血していた。
「…綺麗」
言葉が聞こえたかな…
目を見開いた瞬間、縋るように頭を髪を撫でてまたキスの雨。
甘い熱が呼吸を荒くして、
もう溶けてしまいたいとねだってる。
のぼせそうな舌先が、正中線をおりて
欲しがるように尖った先端を這う。
