第2章 偶然か運命か
『Z町』営業初日、凛帆はレンタカーを借りた。
(えっと、もうすぐ着くかな?)
ナビに従って『手代木家』の前に車を停めた。
呼び鈴を押すとすぐに義母が出てきた。
「まあまあ、忙しいところ寄ってくれてありがとうね。」
「おぅ、よく来たな。」
二人とも『挨拶』で訪問した先日よりもラフな格好だった。
「これ、新製品のお菓子です。」
「もう―――気を遣わないでって言ったのに。でも、ありかたくいただくわ、こないだのも美味しかったわあ。」
「母さんほとんど一人で食ってしまって、今日のは儂にももっと食わしてくれ。」
「フフ、どうしようかしらねえ〜」
(本当に楽しいご夫婦。私と脩二さんもこんな風になれるといいなあ。)
凛帆は頬を緩ませた後、腕時計を見た。
「あ、すみません。アポイント……約束の時間なので今日はこれで失礼します。」
「今日はこれからどこを回るの?」
「WクリニックとX療養センターにY総合病院です。」
「忙しいな。気を付けて行きなさい。」
「お昼はウチに寄って食べたら?」
凛帆はそこまで甘えられないと、丁重にお断りした。
手代木家を後にして凛帆はぼんやり考えていた。
(今日もお義兄さんはお仕事なのかな………会いたかったのにな。)