第2章 偶然か運命か
(ふぅ……ここがやっと今日のアポイント最後だ。)
「よしっ。」と気合いを入れ直して凛帆は『Y総合病院』の門をくぐった。
ここはこの辺りでは一番大きな病院。
受付で社名を告げるとすぐに『事務長室』に通された。
「佐藤に代わりましてこの度こちらの病院の担当となりました、椎名と申します!」
「椎名リホちゃんね、可愛いお名前だね、」
脂ぎった顔をテカらせた事務長は名刺を差し出した凛帆の手を握ってきた。
(うわっ油断してた!)
女性の営業と聞くとこういった勘違いをしているオヤジとたまに遭遇する。先輩の教えから凛帆は男性の担当者と面談する時は二人きりにならない様に、オープンスペースを使ったり、どうしても個室の時は必ず扉は開け放しておくなど、徹底していた。
しかし今日は『事務長室』の扉はピッタリと閉じられていた。
(Z町は脩二さんの故郷でみんないい人ばっかりだったから完全に気を抜いてた……)
ここで怯えたりあたふたしたりすると相手の思うツボなので凛帆はなるべく平静を装って手を引き抜いた。
「お、お使いいただいている『介護ベッド』はいかがでしょうか。」
「あぁ、いいよいいよー。」
事務長は応接テーブルの上のお茶をズズッと音を立てて飲んだ。
「今日は新製品のカタログを持ってきました。
あっ、きゃっ!」
事務長はあろうことかカタログを手に取るフリをしながら凛帆の腕を引っ張って自分の方へ引き寄せてきた。
バランスを崩してソファに倒れ込む凛帆。
事務長はヌラヌラした顔を寄せてきた。
「リホちゅあ〜んはカワイイからな〜んでも買ってあげるよお〜」
臭い息が顔にかかる。凛帆は必死に吐きそうになるのを堪えていた。
(どうしよう………一応お客様だから突き飛ばす訳にいかないし………)
『バン!』
その時『事務長室』の扉が勢いよく開いた、