第7章 帰国
都内の小さなコンサートホール。
まだまだ知名度の低いピアニストだが若くルックスも良いのでそこそこの人の入り。特に若い女性の姿が目立った。
着席しホワイエで渡された今夜の曲目のリーフレットを目を通した凛帆は全身の血が逆流する様な感覚を覚えた。
(――――――最後の曲、ショパンのバラード……)
小さく息を呑んだ凛帆に気がついて脩二は声を掛けた。
「どうしたの?」
「……な、なんでもないよ!」
凛帆は何とか平静さを保とうとしたが、最初に演奏された古典の小品もピアノソナタは少しも耳に入ってこなかった…………
そしていよいよ終曲のバラード―――――この曲を聴いて大粒の泪を溢していた脩一。
凛帆は曲の中盤、ちらりと脩二の横顔を盗み見た。脩二はいつもの様に凪いだ瞳で前を見据えていた。
「凛帆さん、凛帆さん?」
いつの間にかコンサートは終わっていた。
脩二の声で我に返る凛帆。
「あ、ごめんなさい…………」
「やはり疲れている様だね、この後レストランにと思っていたけど僕のマンションに帰ろう。
凛帆さんの好きなシャンパーニュを買ってきたんだ。」