第1章 出逢い
「凛帆さん!だよね!」
車の窓から日焼けした顔がニュッと出てきた。
多少ヒゲは伸びているが不快感は感じない屈託のない笑顔。
「俺、脩一。よろしく。」
脩二から双子の兄弟がいると聞いていた。
「あーやっぱりお義兄さんでしたか!はじめまして、凛帆です。」
凛帆はペコリと頭を下げた。
「たぶんこの汽車で来ると思ったから迎えに来た。こんなとこまで一人でどうも!仕事の車だけども、さあ、乗って乗って。」
「ありがとうございます!」
迎えが来てくれて安堵した凛帆は後部座席のドアに手を掛けた。
「おっと、そっちじゃなくてコッチコッチ。」
『お兄さん』は手を伸ばして助手席のドアを開けた。
「うしろ、片付けてなくてさ!」
後部座席は工具入れや丸めたコードや針金、作業用の手袋や帽子等が無造作に置かれていた。
車はロータリーをぐるりと回って方向を変えた。
「汚ったない車でごめんねえ。」
作業着姿の『お義兄さん』は片手で車を操る。
「いえ、お仕事中に申し訳ないです。」
「いや『お仕事』なんて大層なもんじゃないよ。こちとら半分道楽でやらしてもらってる『電気屋』でさ。こんな田舎じゃあ、役場とかの電球替えやたまに爺さん婆さんのスマホの設定頼まれるくらいで基本のんびりやってっから!」
あはははと白い歯を見せて豪快に笑った。
(双子なのに脩二とは対照的な性格………なのかな。)
凛帆は脩二のいつもチリひとつ落ちていないピカピカの青いセダンを思った。
「おっとぉ、今日は大切なお嫁ちゃんを乗せてるから安全運転、安全運転。」
運転席で姿勢を正して両手でハンドルを握り直す脩一。
意外と生真面目な一面に凛帆はクスりと笑った。
「そんな堅くならなくていいからな。親父もお袋もただの面白ぇジジババだから。」
道中、脩一はそんなたわいのない会話で凛帆の緊張を解してくれた。
運転も丁寧で心地の良いドライブを凛帆は愉しんだ。
海辺の駅から大分内陸に入り込んだ畑の中に『手代木家』はあった。
昔は名家だったと聞いていたとおり、界隈では群を抜いて大きな敷地。地元タクシーの運転手なら名前だけで場所が分かるというのも頷ける。
「はい、到着ぅ〜〜。」
「ありがとうございました。」
門の前は砂利道で凛帆はヒールの足を取られた。
「きゃっ!」