第5章 ドレス・リハーサル
凛帆は脩が上京する日を心待ちにしている自分に戸惑っていた。
あの海辺の岩陰での出来事を思い出す度に身体が熱くなる。
(あれはなかったこと…………)と幾度も自分に言い聞かせた。
―――――都内、某高級ホテル内の結婚式場。
「椎名様、手代木様、お待ちしておりました!」
凛帆とRV車で駆けつけた脩一をにこやかに出迎えるスタッフ。
「す、すごい豪華なところだな………俺場違いじゃない?」
「ふふ、大丈夫だよ。そのシャツ、脩二さんに借りたの?良く似合ってるよ。」
「『作業着はやめろ』とキツく言われてな。」
あっはっは!といつもの様に豪快に笑う脩一。
凛帆も見たことのあるハイブランドの襟付きシャツにジーンズを合わせている。
(やっぱり服のサイズは一緒なんだ………)
予定されているチャペル式用のドレスとタキシードは事前に選んでいたこともありすんなりと決まった。
「………凛帆ちゃん、綺麗だなあ〜
婿さんより先に俺が見ちゃっていいのかね?」
ドレス姿の凛帆を目の前にして脩一はおどけて言った。
「新郎様?」
「えっ?俺?」
タキシードを脱ごうとした脩一にスタッフが声を掛けた。
「こちらもお召しになってみませんか?」
スタッフが手にしていたのは見事な銀糸の刺繍を施してある漆黒の羽織………
「……え?私たちチャペル式だけなので………」
「はい!花嫁様、確かにその様に伺っていますが、こちらの新郎様のこの当館自慢の羽織姿を是非拝見したいという私の個人的希望ですわ。」
と半ば強引に羽織袴を着付けられてしまう脩一。
「まああ!思ったとおり!
なかなかこの衣装を着こなせる方はいらっしゃらないんですよ!」
(……うわ、確かに精悍な感じの脩さんの和装、すごくかっこいい!)
思わず見惚れてしまった凛帆も色打掛を纏うことを促された。
「せっかくですからお二人の素敵な御姿、庭園で写真を撮らせてくださいな。」
スタッフに言われるがまま、和装姿の二人はホテルの庭に連れ出されて撮影会となってしまった。
「うわあ、綺麗!」
「モデルさんだよね?」
「でもすごくお似合い!」
式場見学の客たちが脩一と凛帆に羨望の眼差しを向けていた。