第5章 ドレス・リハーサル
「結婚式なんて面倒なだけかと思ってたけど案外楽しいもんだな!」
凛帆を助手席に乗せ、車のエンジンを掛けながら脩一が言う。
「………あっ、そう言えば足!脩さんこの間怪我した足、どうなの?」
「あーあ、もう何ともないって。まだバンソウコ、貼ってっけどな。」
地下の駐車場を出るとさっきまで快晴だった空の雲行きが怪しくなっていた。
「こりゃ、ひと雨くるな………」
「最近天気変わりやすいよね。」
そのうちにフロントガラスに大きな雨粒が叩きつけ始め、あっという間に土砂降りとなった。
ラジオからは気象警報が流れている。
「どこかでお食事でもと思ってたけど、早く帰った方が良さそうですね?」
「そうだな、残念だけどな。
凛帆ちゃんのアパートは北区だっけ?通り道だし送るよ。」
「ありがとう、助かる。」
雨はますます強くなり、雷も鳴り出した。
凛帆のアパートの近くまで来た時、ラジオのキャスターが緊迫した声で高速道路通行止めのニュースを告げた。
「ありゃ、まいったな………」
「…………雨、落ち着くまでうちで雨宿りしていったら?」
「悪いけどそうさせてもらうか!」
コインパーキングに車を停め、相変わらずごちゃごちゃの後部座席積んであった使い古しのビニール傘を二人で差してアパートへ転がり込んだ。
「ひゃ〜ハンパない雨だな。」
凛帆が差し出したタオルで少し濡れた髪と服を無造作に拭く脩一。
あの海で身体を近づけた時の様な野性的な香りがした。
凛帆は府中市に実家があったが仕事が不規則だったので通勤の利便性から会社に近いアパートで一人暮らしをしていた。
が、婚約者の脩二はここに訪ねてくることはなかった。
(うっ、不可抗力で仕方ないけど、初めて男の人を部屋に入れちゃった!)
窓を叩きつける様に降る雨。時折激しく響く雷鳴。
テレビが告げる。
『激しい雨は今夜中続く模様で、高速通行止め解消は明日朝の見込みです。』
(えぇ……:)
「マジかよ!しょうがないな、よし!下道(したみち)ゆーっくり帰っから。」
「え、まだ雨すごいよ?」
「いやもういつ止むかわかんねえから。じゃっ!タオルありがとな。」
脩一はボロボロのビニール傘を差してアパートを出て行った。
(大丈夫かな?)
その時テレビからニュース速報の警告音が鳴った。