第4章 夏浅い海
『潮亭』
その名のとおり新鮮な海の幸が自慢の居酒屋。
「へぃ!らっしゃい!
お、手代木さんのお嫁さん?だね!」
「よ、よろしくお願いします……」
「凛帆ちゃん、そんな堅くなる様な店じゃねえから!大将、座敷上がるよっ。」
「……ったく、脩はいっつもいつもズケズケと。でも、まっ!そのとおりだ!べっぴんさんには大サービス、いっぱい食ってってくださいね!」
「大将!生!あ、凛帆ちゃんも生でいい?」
「はい……」
「へい、生2丁!まいどお!」
凛帆は脩に初めて「ちゃん」付けで呼ばれてくすぐったかった。
「…脩さん………」
「んっ?」
「今日は車を出してもらった上にご馳走になるのは申し訳ないから半分払いますね。」
「なあに、そんなの気にすんなって!親父にここまで送ってもらったついでにコレももらっておいたから!」
脩一は作業着のポケットから一万円札を出してヒラヒラ振って見せた。
「よっ!さすが手代木家のドラ息子!
はい、お通しのホタルイカの酢味噌和えだよ。」
女将が小鉢とジョッキを運んできた。
「くぅ〜当たってるからなんも言い返せねえ〜」
和服を着慣らした小粋な女将はケラケラと笑って凛帆を見る。凛帆もつられて笑う。
「ごゆっくりね!」
『ドラ息子』と呆れられながらも脩はこの町の人たちにとても愛されていることが凛帆は分かった。
来る人来る人、皆気さくに声を掛けてくる。
凛帆は町の人との楽しい会話と美味しい海の幸を満喫した。
「ふぅ〜お腹いっぱい!美味しかった!」
「だろ?また来よう!」
「お義父さんにご馳走様と伝えて………あら?」
「どうした?」
「………海鳴りが聞こえる。」
「あ、もうすぐそこ海岸だからな。昼はそれなりガヤガヤしてるからあんまり海の音聞こえないんだけどね。」
こころなしか潮の香りも強い様な気がしていた。
「あ、そうだ!」
唐突に脩一が大きな声を出した。
「明日は休み?」
「えぇ、土曜日だから………」
「じゃ、海、ちょっと行ってみるか!」
この週末も東京の脩二は会社に詰めることになっていて一人で過ごす予定だった凛帆の顔が輝いた。
「いいんですか?!」
「おう!明日はいい天気らしいしな!
朝はゆっくり寝て、用意出来たら連絡よこせな?すぐ迎え行くから!」