第1章 記憶と感覚。
「君は、2年前に姿を消したんだ」
『2年前…』
「突然だった。あらゆる手を尽くしたが消息は不明のままだった」
確か、通帳の記載がなくなったのも2年前だった。
その頃の"私"に、一体何が起こったのだろう。
『覚えていなくて、ごめんなさい』
「こうして戻ってくれた。今はそれでいい」
『愛されてたのね、"私"』
"私"と過去形は、自身への線引き。
愛されたのは"私"であって、私ではない。
「、俺は!」
拒絶とまではいかないにしろ、受け入れられていないと察した安室は、少し声を荒げた。
『ごめんなさい。あなたの知る"私"は"私"であって私ではないの…』
「…」
『あなたの事も最近知り合った人。たまたま凄い秘密は握ってしまったし、助けてもらったけれど…』
「…そうか」
抱きしめられていた腕が、ゆっくりと離れた。
今、彼は、どんな顔をしているのか。
振り向くことはできなかった。
そんな自身の顔も、彼には見せたくなかった。
❀第一章 完❀