第1章 記憶と感覚。
………ズキリ。
『………っ…』
はげしい頭痛とべたつく冷や汗に、寝覚めの悪さを感じる。
「痛…」
気だるげに視線をあげると、大きな違和感に焦りが滲んだ。
『………ここは』
例えるならば、知らない人の家で目を覚ました、そんな焦りだ。
しかし、辺りを見回しても確かに自分の部屋で、寝ているのは自分のベッドで間違いはなかった。
けれど、壁の一部には大きな違和感。
記憶にないものが備わっている。
ふらつく身体でベッドから抜けだし、その記憶にないものの前に立った。
まるで高額なアクセサリーを厳重に管理しているショーケースのような、重厚なガラスケースがふたつ、壁にかけられ並んでいる。
『なに…これ……』
中を覗いてみると、拳銃やライフル、ナイフなどの武器や装備、おおよそ一般市民がお目にかかることのないものが丁寧に並べられている。
『…え、本物??』
身に覚えのない、記憶にもない、武器なんてもっての外だ。
わけがわからない状況に、それらを呆然と眺めた。
しかし頭痛は激しくなるばかりで、キャビネットからピルケースを取り出した。
そこでもまた知らない錠剤類が目についたが、今はそれどころではない。
慣れ親しんだロキソニンを手にキッチンへ向かう。
冷蔵庫からペットボトルの水を取りだし、薬とともに喉へと流し込んだ。
冷えた水が少しだけ心地良く感じる。
薬が効くまでソファーにくったりと背を預けた。
なんなんだ、わけがわからない。
身体を預けたソファーも、目の前のローテーブルも、テレビも、観葉植物だって、さっきまで寝ていたベッドだって慣れ親しんだものばかり。
その日常の中に異質な、それ、がある。
『どういうこと…』
誰かが侵入をして、たった一夜にしてあれを設置しとでも言うのか。
そんな馬鹿な…。
そんなことが起きたなら、警察に通報案件だ。
異常事態なのに、頭痛が邪魔をしてなかなか思考が定まらない。
まぶたをおとして、身体を脱力させる。
こうすると薬の効きが良くなるわけではないし、頭痛が楽になるわけでもないけれど、意味不明な現状から逃れたくてなんとなくだ。
はっと目が覚めた。
どうやら寝てしまっていたらしい。
ならば、あれは夢だったのではないかと、一縷の望みをかけて寝室を確認する。
『あるし……』
ガラスケースがそこにある。
夢ではなかったと絶望する。