第1章 記憶と感覚。
自分のしでかしたことに自覚が湧いたのか、車内は微妙な空気だ。
「すまない」
『あなたそればかりね』
全てが腑に落ちないくて、煮えきらない。
親密度に関連性を匂わせるような行動。
こんな場所、他人なら知らないはず。
それに触れられた肌に、彼の熱が残っている。
徐々にいたたまれない気分にさせられる。
今すぐに彼から離れたいと、強く思った。
『さよなら』
そう言い残して、自分の車に乗り込みエンジンをかける。
振り返ることなく車を発進させた。
頼みの綱だった毛利小五郎との関係性はなく、ひとつだけ、安室との繋がりは見えた。
それすらも濃霧の中だと…、鍵穴に差し込まれた鍵についたリングが、街頭の灯りに反射しながら揺れた。
『Misty…ね』
自嘲気味に笑う。
地下駐車場に到着をする。
ドアにはカードキーの機器が備わっている。
カードキーを翳してみると、ピッ、ピーと音がなって、ドアの鍵は解錠された。
帰宅してからすぐにシャワーを浴びる。
あの熱を、早く上書きしたかった。
それにしてもこんな傷跡があったなんてと確認すると、傷痕あたりに2本のベルトの痕があることに気付いた。
この形状のものをガラスケースの中で見ている。
急いで泡を流して、適当に身体を拭いた。
閉め方がわからずに、開いたままのガラスケースからそれを取り出した。
身体についた痕に合わせて装着してみる。
『ひったり…』
ナイフや拳銃を装着できる、レッグホルスターの痕だった。
ショルダーホルスターも装着してみると、痕こそないけれど身体にフィットしている。
無縁でありたかったこの物騒な装備類は、自身の所有物だと証明してしまったようなもの。
無害な一般市民ではなくなってしまったと、肩を落とした。
『私って悪いやつなのかなぁ…嫌だなぁ…』
装備類を外してガラスケースの中に戻した。
押したり叩いたりしてみたけれど、ケースはやはり閉じてはくれなかった。
そして傷痕をもう一度確認してみる。
明るい部屋で見るそれは、明らかに銃創だった。
拳銃で発砲されたことがあるということは…ますます危険人物感が増してしまう。
冷蔵庫にあった自分の物であろうビールを取り出し、ルーフバルコニーへ出た。
上層階から見える綺麗な夜景を眺めながら、せめて"私"が危険人物ではありませんようにとビールを呷った。