第5章 偶然と必然。
降谷から"今日は帰る"と連絡が着たのは、風見が訪れた日から3日後だった。
いそいそと部屋を片付けて、キッチンの前に立つ。
セロリを多めに入れたポトフと、ポークジンジャーにポテトサラダとセロリスティックを用意した。
お風呂の準備まで終えて、完璧だ。
上機嫌に降谷の帰りを待った。
20時を過ぎた頃にインターホンが鳴って、広くはない部屋を小走りに玄関まで急ぐ。
鍵が解錠されドアが開くと、彼の帰宅だ。
『おかえり!』と抱きついた。
少しばかりらしくない出迎え方だけれど、何せ3日ぶりの帰宅だし素直に嬉しいのだ。
「ただいま」と抱きとめられて頬に唇がふれる。
世間一般では当たり前な出迎え方も、2人だからこそどこか新鮮に感じている。
まだしばらく抱き合っていたいけれど、いつまでも堪能しているわけにもいかない。
『ご飯できてるよ、食べる?』
「んー」
の問いに、いまだ頬や耳に唇をあてている降谷を無理やり引き離した。
このままではなし崩しにベッドへ直行してしまいそうな雰囲気だ。
『零ってば、早く着替えて』
「…わかった」
しぶしぶという風に着替えに行った間に、夕食のセッティングをする。
2人で向い合って両手を合わせていただきますをする。
セロリが多い事に気が付きを見つめると、視線に気づき小首を傾げる。
"なんとなく" 用意されたであろうセロリでも、自分の好物を選んでくれたことが嬉しい。
ふと手料理をしなかったのことを思い出した。
「そういえば、が料理を作れるのは意外だったな」
『え、"私"は作らなかったの?』
「いつも俺が作ってたな」
『…なにそれ妬ける』
自身に嫉妬をしてしまうのは、すでに開き直っている。
何せあの無様な思いの告げ方をしてしまったから今更だ。
そんな素直な物言いも、降谷には好ましく思えてしまう。
『あ!明日は?』
「明日はポアロだ」
彼は多忙だから仕方のないことだ。
思わず肩を落としてしまった。
神様は時々こんな意地悪を仕掛けてくる。
たまには気を使ってよ、と心の中で悪態を付いた。
洗い物をすると聞かない降谷をソファに追いやる。
後片付けを終えてから、降谷の隣に座り身体に預けると、腕を回して頭を撫でられる。
穏やかなこの時間は、2人にとっては大切なものだ。