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【夏目友人帳】海底の三日月

第1章 邂逅


「いろいろやってもらうことはあるのですが、ずっとここにいては息が詰まるでしょう。高校にでも通ってみますか?」
着替えて来て食卓に着いたさやぎに提案してみる。
「…共学のところがいいです」
初めて言葉でまともな反応が返ってきた。
「君の学力なら選び放題でしょう。ただし、電車やバスで通える範囲内にしてくださいね」

「…」
「どうかしましたか?」
「お姉ちゃんに会いに行ってもいいですか?」
「お姉さんがいるんですか?」
「…お父さんと…お母さんは…事実上再婚で、お父さんには前の事実婚の奥さんとの子供がいて、2年2ヶ月15日だけ一緒に暮らしてました。前の奥さんが親権を持っていたので離れたけど、よく会ってました」
「今はどこに住んでいるんですか?」
「イタリアです」
「会いに行くには遠すぎますねぇ…」
会話が続くようになってきたのはいいが、イタリアは遠すぎて容認できない。
「日本に来るそうです。…ここに呼んでもいいですか?」

「お姉さんは妖怪が見えるんですか?」
「見えません」
「君が見えることは?」
「知ってます」
「それについては何と?」
「…『目のいい人は細かいものまで見える、みたいなものかな』だそうです」
「なんというか…おおらかな方ですね。今の現状を話したんですか?」
「結婚することになって大きなお家に引っ越す、ジャパンって感じのお家みたいと言ったら、『見たい』と」
ずいぶんとざっくりと話したものだとも思うが、実際もっといろいろ話したからこそ、姉が心配して様子を見に来ようとしているのだろう。

「…何を見たいと?」
「家とか?的場さんとか?日本建築とか?私とか妹とか?」
「仲の良い姉妹なんですね…。そうですね…お姉さんや妹さんに会って彼女たちを追ってここを出ていくことはしない、と約束できますか?」
出来る自信がないのか、する気がないのか、テーブルの端に置いた手を不安げな様子で数回上下させてテーブルを鳴らす。
「…約束します」
数秒経って返事が返ってきた。
「それなら、呼んでも構いませんよ」
答える前の迷いがありそうな様子に気づかないふりをして、わざと軽い調子で承諾する。
「ありがとうございます」

初めて彼女の笑う顔を見た。
視線は私を通り越して、外の虹に向いていたが。
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