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【夏目友人帳】海底の三日月

第1章 邂逅


「…お母さんの親戚ですか?」
数秒経ってから、再び目を開いて彼女が問う。
「ええ、そうですよ。ただ、聞いているとは思いますが、親戚として引き取ったのではなく、婚約者として結婚前に早めに来てもらったと思っていてください」
「……」
今まで以上に酷く怯えた顔をして布団をかぶろうとする。
「そんなに怯えなくても、逃げたり反抗したりしない限り手荒なことはしませんから」
裏を返せば、逃げたり反抗したりすれば容赦はしない、ということだ。

「草摩(そうま)の人みたいに…」
布団から顔の上半分だけ出して小さな声で問う姿が小動物を思わせる。
草摩というのは彼女の養母と実母の実家で、祓い屋の一族だが、現在は見える者がほとんどいないため事実上廃業している。
「的場一門は草摩のように力が弱くはない。だから何日も拘束して搾取するようなことはしませんよ」
苦痛を伴う術に数時間は拘束されるのだから、安心させるには不十分すぎるが事実だから仕方がない。

的場家に売られてきて、否が応でもここにいるしかない。家族なのか何なのかわからない人間や妖怪がうろつく屋敷内に閉じ込められて、突然の婚約、何を要求されるかわからない状況、息が詰まるどころの話ではないのだろう。
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