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【夏目友人帳】海底の三日月

第4章 お伽話の法則


「『私も』何と言おうとしたんですか?」

2人が見えなくなると、的場さんは笑顔で振り向いた。
やっぱり聞かれていた。笑顔で咎める彼に言い訳など通用しない。
見抜かれたとドキリとしたが、その感覚はすぐに胸の痛みに埋もれていく。

「君の帰るところはここです。帰す気も逃がす気もありませんから」
「帰りたい…と、言おうとしたわけではないんです。ホームシックになろうにも…最初から、帰りたい家なんてなかったから…」

いつも、家にいたくなかった。すぐにでも、家を出ていきたかった。
でも、他にいたい場所も行きたい場所もなかった。
どこにもいたくないし、どこにも行きたくない。
涙をごまかすように空を見上げたが、もとより涙なんて出ていなかった。

「私も」何と言おうとしたのか、自分でもわからない。
お姉ちゃんと妹ともう少し一緒にいたいと思っているのは確かだけれど。

「そうですか。…雨が降りそうですね。もう入りましょう」
彼はそれ以上追求せずに、また私の肩を抱いて邸の方へ向かう。
強い力ではないが、逃れることを許さないとでも言うようにぴったりと寄り添って歩く。

お姉ちゃんと妹と一緒に行きたかった。
いや、それは嘘ではないが言い訳で、本当は不安から逃げたいだけかもしれない。
何かを探すようにもう一度空を見上げたが、どこまでも曇り空が広がっているだけだった。
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