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【夏目友人帳】海底の三日月

第3章 昏蒙のアリス 後編


「…的場さんは私よりいくつ年上なんですか?」
4、5年前高校生だったなら、今は20〜23歳くらい?
「6歳ですね。日本の年度は4月始まりなので、年度でいうと5年分といったところです」
私の意図を汲んだ答えが返ってきた。
「一緒に中学校には行けないけれど、一緒に小学校には行ける差ですね」
「そうですね。一緒に中学校に行けるなら、今頃私は高校生です」
私は今、どんな顔をしているのだろう。
的場さんの表情は心から笑っているようだった。

さっき両手でエルクの角を模した時に右腕が痛かった思って、右腕を少し上げて見ると、腕の内側に小さな赤い内出血ができていた。
「痛いですか?」
言われて初めて、座敷牢でつけられた傷だと気がついた。
噛まれたと思っていたけれど、歯形ではない。
「2年くらい前は妹によく噛みつかれていたので慣れています」
「…そうですか」
なんとも言えない顔で答える的場さん。兄弟喧嘩が激しいと思われただろうか?

「…怒っていますか?」
何か考えているのか的場さんが黙ってしまったので、沈黙に耐えかねて訊いてみる。
「怒ってませんよ。怒っているように見えますか?」
意外そうな様子で問われた。
「見えませんけど…妹は怒るとよく噛みつくので…」
きょとんといったかんじに一瞬目を丸くした後、的場さんは「可愛いですね」と笑い出す。
「すぐ癇癪起こすから面倒見るのは大変です」
と答えると、
「妹さんじゃなく、君が可愛いと言ったんですよ」
と笑われた。噛みつかれながら妹の面倒を見る姉が?
「私は怒ってませんし、噛みついたつもりもないですよ。甘噛みはしましたが、これはキスマークです。痛い思いをさせるためにわざと歯を当てて強く吸っただけですよ。…言っている意味、わかってますか?」
「…アダルティなかんじですか?」
少し考えてから尋ねると、彼は本当に可笑そうに笑って、
「ええ、アダルティなかんじです」
と答える。

「まさか、怒って噛みついたと思われているとは思いませんでした」
「…1年生と6年生なので、仕方がないかと思います」
むくれても仕方がないので、開き直って歳の差を主張してみる。
「そうですね。でも大人になれば、その程度の歳の差は大したことなくなりますよ」
そうは言っても、彼は、私にとってはまだまだ先を行く遠い人に感じた。
走ってもなかなか追いつかない…
白うさぎのカード。
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