第1章 [十戒]好きでもいい理由が1つでもあればいいのに[轟焦凍]
「こんな結婚、やっぱり間違っています!!」
啜り泣く声が止んだかとと思えば、泣いてたメイドは顔を上げ主人らしき女性の側に近づく。そして、懇願するように彼女の片手を両手で包み込む。それはそれは大切そうに。
手を握るメイドが目を伏せた瞬間、彼女の頬を光る雫が流れていった。
「サラ……」
終始無表情だった主人の顔が、初めて変わる。
眉を下げて申し訳無さそうな表情でサラを見つめるその人の名は=。
エンデヴァー王国を守る貴族の家の一人娘だ。
「サラ、お嬢様とショート王子の決意を無駄にしてはなりません」
手際良くの身支度を整えていたメイドは、その手を止めずに話を続ける。
しかし、その表情は非常に険しく、時折震える唇が彼女の心情を物語っていた。
それでも尚支度をする手を止めないのは一重に高い忠誠心故の行動だろう。
彼女の名前はリタ。家に長く務めるこの家のメイド長だ。
「……それに」
ずっと手を止めていなかったリタがやっと手を止めた。かと思えば、重々しく口を開く。その目からは涙が溢れ出ていた。
「もう、五年です!!お二人が最後に言葉を交わされたのは、もう五年も昔のこと!!」
リタの心からの叫びはサラに通じたのか、彼女は握っていた主人の手をそっと離し、そして静かに俯いた。
「……そうね。王子殿下とお話できていたことは夢だったのよ」
は静かにそう呟くと悲しそうにサラに微笑みかけ、その小さな背をゆっくりと撫でる。
けれど僅かに噛み締めた唇は震えており、昔を懐かしむように目を細めて窓の外を眺めるのだった。
その瞬間、真っ白な鳥が気持ちよさそうに飛んでいた。