【WIND BREAKER:®️指定】My friend
第4章 ®️独り占め出来ない
だから……簡単にキスなんかしないで。
いつきの握られた手に、涙がポロポロ落ちた。
もう知っているから。
愛おしくて、好きな相手にはどんな顔をしてキスをするのか。
いつきの脳裏に、十亀との日々が浮かび上がる。
十亀がどんな風にキスをしてきたか。
自分に触れてきた十亀はどんな風に震えていたか。
初めて十亀とキスをした時に、その唇は震えていて、目を開いて見ていた十亀は目を瞑っていても睫毛まで震えていた。
頭がおかしくなりそうだった。
要らないと、切り離した十亀との思い出がハッキリと脳裏に浮かぶ。
あの日々を塗り替える様なキスが出来ないなら、私に触れないで欲しい。
『いつき。』
目の前に梅宮が居るのに、思い浮かべるのは十亀の声と、いつきの名前を呼ぶ時に微笑む彼の顔だ。
「……先輩は私に気軽に触れられません…。」
彼の残してくれた日々が、これ以上汚れないない様に。
彼が向けてくれた愛情が、これ以上痛みにならない様に。
何度も何度も自分を呼んでくれた彼の笑顔が、どうか幸せであります様に。
「……今……何で泣いてるの?」
いつきが泣いている理由が何故か自分では無い気がした。
そして、宥めようと伸ばした手を、いつきは受け入れようとしていないのも分かる。
彼女は誰のために涙を流しているのか。
そんな事が疑問にならない程度には、ずっといつきを見てきた。
『大切な幼馴染。』
最近この単語を聞かなくなった。
そして、学校でたまに見せる憂いを帯びた表情で、その幼馴染がいつきにとってどんな存在だったかを、今知った。