私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第16章 夏休み2
*椿のひとりごと2*
静かに部屋に入って来たひまりの気配に、暗がりの中うっすらと目を開いた。
力無く、畳に座り込む音。
その後、声を押し殺してすすり泣く声が微かに聞こえてきて。悲痛なその声に胸が押し潰されそうになる。
‥梅と何があったのかは分かってる。
数日前、緊急集会があったから。
‥"脅威"が風鈴を潰しに戻って来る。
きっと、今までの比じゃないくらい壮絶な争いになる。
梅は、そう言っていた。
話を聞いて真っ先に頭に思い浮かんだのは、ひまり。
‥アタシだけじゃない。
皆、次に狙われるのが誰か分かってた。
‥アンタは、梅の大切な人だから。
それでも、選択肢はいくらでもあったはずなのに。
梅も、ひまりも。
幸せを選ばなかった。
ここ数日‥笑っていても、どこか苦しそうだった2人。
そして、今日。
2人が選んだのは、やっぱり‥アタシが1番選んで欲しくなかった道だった。
別れじゃないのは分かってる。
でも、やっと動き出した恋だったから。
少しでも幸せな道を選んで欲しかった。
‥ここ数日の幸せそうな2人を見ているだけで、アタシも幸せで満たされていたから。
なのに、こんなに早く。こんな形で奪われるなんて。
2人を思うと胸が張り裂けそうで。
ひまりが出て行った後、ことはも悲しそうだった。
‥ ひーちゃん、全部気付いて分かってるよね、と。
2人が決めた事だから、アタシ達は見守るしかない。
でも大好きな2人の笑顔が曇るのは、イヤ。
だから。
ひまりも、梅も。
梅が守ってきたこの街も、風鈴も全部。
アタシが大好きなものは、全て。
絶対に守るから。
‥信じて待ってて、ひまり。
ひまりが布団に潜り込む音に、アタシの目から一筋の涙が流れた。