第3章 escada
side黄瀬
寝室のことは青峰っちに言われた。
「空間が落ち着かねぇとか、匂いが嫌いとか、こっちからしたら大したことじゃねぇんだけど、女はそうじゃねぇらしいから寝室だけはベッドからカーテンから全部あんずが決めた」
「匂いが嫌いって……俺臭いっスか?」
「知らねぇよ‼‼つか、そういう意味じゃねぇ。女がみんな同じとは限らねぇけど、あんずは寝室だけはマグノリアの匂いがいいとか言って、あの部屋だけはディフューザーとかいうの置いてる。リビングやら書斎やらは多少ごたついてても気にしねぇけど、寝室だけは服脱ぎっぱなしにしとくと怒るし、それぞれこだわりってのがあんじゃねぇの?落ち着く空間ってのは多分すげぇ大事」
青峰っちは女の人には全然詳しくないけどきゅーちゃんにはめちゃくちゃ詳しい
まぁもう長く付き合ってるし一緒に暮らしてそれなりに期間も経ってるからそうなんだろうけど、やっぱ相手をちゃんと好きで大事にしてるからいろんなことを知ってる
「一緒に住むなら、寝室だけは総とっ替えになると思ってた方がいいぜ。そこだけはどんなわがままも問答無用で聞いてやれ」
一緒に住みたいってことは前から思ってて、よく青峰っちと話はしてた。
だけど、まだ早いのかなって気持ちもあって言わずにいたけど、今回のことがあって、どんなことが起きても俺はつばきと一緒にいたいんだって気持ちが固まった
ちょっと回りくどいけどつばきに自分の気持ちを伝えると、目をぱちぱちさせて首を傾げたり、手で口を押えたりして俺の言葉の意味が伝わってるのかそうじゃないのか……
「言ってる意味、ちゃんと伝わってる?」
「え、うん。多分……」
「じゃあ言い直す。つばき、俺と一緒に暮らして欲しいんスけど、返事くれねっスか?」
伝わってたと思うけどやっぱストレートに言った方が良かった。
泣き止んだばかりでウルウルした目で俺を見て、泣きそうに口元を歪めながら、少しだけ笑ってくれたように見えた。
「いっぱい…面倒かけちゃうかも……」
「そんなのお互い様」
「家賃、半分は厳しいかも…」
「家賃はいいから。つばきは俺を好きでいてくれる担当」
好きでいてくれたらそれでいい
俺を好きで、俺と一緒にいたいと思ってくれたら、本当にそれだけでいい。