第5章 ご
「鶴さん泣いてる?」
「…泣いてない」
何度も危うかったが。
「きよ!つるさん!!」
参観日を終えて、駆け寄ってきた主を迷わず抱きしめる。
「主、こっち見て」
「きよ!!」
「可愛い可愛い」
すっかり専属カメラマンになっている加州にファンサとやらをしながら、俺に抱かれて笑顔の主。
「つるさん、これあげる!」
鞄の中に入ってる紙を取り出した主。
受け取ったのはこの前話していた似顔絵だった。
「こっちがきよで、こっちがつるさん」
「主俺には?」
「きよは、つるさんにみせてもらって」
「本丸行ったら俺にも書いてくれる?」
「うん!!」
「じゃあいいや。よかったね、鶴丸…あれ?また泣いてる?」
「つるさん、うれしくない?」
「…いや、すごく嬉しいさ。ありがとう、あるじ」
「ふっ、」
「主に素晴らしい誉をいただいたからな、加州、フラペチーノとやらは、主も飲めるのかい?」
「うん」
「行くか」
「やった!鶴丸の奢り?」
「ふらぺちーの!」
嬉しそうな主と同じ顔をしている加州。
こんな日々が続けばいいとこっそり思う。
店に着くと、呪文のような注文をすらすらと唱えた加州。
俺はコーヒーを頼んで、親子…兄妹のような二人をカメラに収める。
「鶴丸もフラペチーノ頼めばよかったのに」
「甘いんだろ?俺には」
「つるさん、あーん」
甘いのは苦手と思いつつ、主の手前一口いただけば、想像以上に甘い。
「おいしい?」
「あぁ」
でも、嫌じゃない。
「よりみち、たのしいね!」
きみが笑うなら、何度だって来よう。
「でも、主。長谷部に内緒ね、あいつ参観日に参加できないだけでゴネてたんだから」
「うん!」
「じゃあ、帰るか」
「つるさん」
俺に手を伸ばす主を抱き上げる。
「すっかり抱き癖ついちゃったね、主」
「羨ましいか?」
「そうね」
あと何回こうできるんだろうな。
「主、俺が抱っこしようか」
「つるさんがいい」
しょぼんとする加州に悪いと思いながらも、俺は嬉しさを噛み締める。
なんて言うんだろうな、何気ないときに感じるこの気持ち。
…あぁ、そうか。
幸せか。
帰り道に額を買って、俺の部屋に飾ると光坊や貞坊に羨ましがられたのは、言うまでもない。