第4章 し
アラームが鳴って、そろそろ迎えの時間だと知らせる。
職員に声をかければ、少し色を含ませた目をしながら主を連れてくる。
俺を見つけた瞬間に、花が咲くように笑って駆け寄ってくる。
「今日はどうだった?」
「たのしかった!!」
そうかと、抱き上げればやっぱりお日様の香りがして、くすぐったいと笑う主に俺もたられて笑った。
「つるさん」
「どうした?」
「わたしがたのしかったあいだ、なにしてたの?」
「…そうだな、きみのことを考えていた」
「わたしのこと?」
「あぁ。加州が心配して電話をかけてきたからな」
抱き上げた形から肩へとうつし、肩車をしてやると、小さな手できみが俺の頭にしがみついて、なんだかそれが暖かくてこっそりと口角が上がったのはきっときみからは見えないだろう。
「つるさん、きょう、えをかいたよ」
「へぇ、どんな絵を描いたんだい?」
「みんなは、ぱぱとままをかいてた。わたしは、ぱぱもままもわからなくて、せんせいにきいたら、だいじなひとのことだよっていうから、みんなをかこうとおもったんだけど、たくさんかいたらおかしいって、おともだちにいわれて、…だから、つるさんときよをかいたよ」
「……そうかい」
「さんかんびに、わたすんだって」
「さんかんび?」
「おたより、きよにわたすから、つるさんもきてくれる?」
「あぁ、もちろんさ」
肩車からヒョイっと下ろし、そのまま正面で抱きかかえる。
この方がよっぽど、温もりが近くて落ち着く。
「俺は、本丸の連中の中で1番遅い顕現だからな、きみに会えたのが遅かったから、これからはなに一つ取りこぼさずに見て行きたいと思うよ」
俺の言葉に微笑んでも、きみはまだ幼いから多分通じてはいないだろうと、プロポーズじみたことを言ってしまった。
「きみを離したくない。いなくならないで欲しいんだ」
「つるさん?」
「…いいんだ、わからなくて」
「わかるもん。つるさんが、いなくならないでっていうなら、いなくならないもん」
「……そうか」
ただぎゅっと抱きしめる。
きみの素直さが痛い。
「じゃあ、そうしてくれ」
「うん」
俺の願いは、きみとの約束は、まるで呪いだ。
きみを雁字搦めにしていくのは、目に見えている。
こんなに純粋なきみを黒く染めあげてしまいそうだ。