第4章 し
加州の采配で、俺はきみのお世話係になった。
長谷部は"貴様許さぬぞ"と、ハンカチを噛み締めてキレていたな。
「まるちゃん」
「なんだ?」
「て、つなご。はせべがいつもそうする」
小さな紅葉みたいな手が俺に向かって、精一杯の背伸びで差し伸べられる。
「そうか、じゃあ俺は」
その手を超えてそっと抱き上げると、肩に乗せた。
「どうだ、眺めがいいだろ?」
「うん!」
俺の頭にぎゅっと捕まって、でも力が弱いから痛みもなんともない。
「まるちゃん!」
「なぁきみ、やっぱりそのまるちゃんっていうの」
「いや?」
「なんて言うか俺らしくないだろ?」
「でも、あかしが」
「揶揄われたんだっけか」
こくんと、揺れる。
「主、俺に続いて積み木って言ってみてくれ」
「つみき」
「その調子。じゃあ、次はそうだな、…つらら」
「つらら」
「うまいじゃないか。最後に鶴と」
「つる?」
「ほら、言えるだろ?」
「うん、でも。でも、みんなつるまるとか、つるさんってよぶ」
「そうだな。だからきみも」
「みんなといっしょ、いや」
頭に少しの重み。
君が俺の頭にくっついたのか。
『だから、“国永"って呼ぶ!』
…あぁ、そうか。
そう言うことか。
「きみには難しいかもしれないが呼び方じゃない、きみの声で呼ばれるのが特別なんだ」
「じゃあ、まるちゃん」
「だから、」
「…わかった。つるさんってよぶ」
頑なに悪いな。
…だけど、巴も言っていた。
初めが肝心と。
きみに特別は与えない、嘘を重ねても。
きみがいつか大きくなって、同じくらいの歳の頃になって、呼び方一つときみに今特別を与えてしまったとして、出来心で俺を“国永“と呼んだら…いつかのたらればに俺は今から怯えてる。
可能性を切り捨てていく。
先のためにできることが、例えごくわずかだとしても。
「つるさん」
「ん?」
「えんれんでね、つるさんはいつもやさしいの」
「…他の本丸の話か?」
「そうだよ。えんれんのところ、おとなのひといっぱいで、おともだちいないの」
ぎゅっと力が篭る。
「ほかのひとも、かたなも、わたしのこといやな"め"でみてくる。めんどくさいってかおするの。でも、つるさんはねちがうんだよ」