第3章 さん
『国永!』
翌朝、いつものように"きみ"が起こしにくる。
「おはよう、早いな」
『でも、国永の方が早かった』
「きみ、まだ先日のことを根に持っているのかい?」
『そうだよ。勝手に寝ぼけた顔撮ったの絶対忘れないから!即消してって主命してるのに!時空装置の端末用の待ち受け、いつまでその寝ぼけた私の顔にしてるの?』
「仕方ないだろう、消し方がわからない」
『そんな、荒地の魔女みたいなこと言ってないで、私が消してあげるから、今すぐ出して』
「悪い、今手元にない」
布団を片付け、ぱっと両手を広げて見せる。
意地悪を言ってきみにぽかぽかと叩かれたところで、痛くも痒くもない。
『長谷部といち兄ぃに言いつける』
「それは勘弁してくれ、きみのためにも」
『私のため?』
「あの2人に言ってみろ、寝起きの顔だろうがなんだろうが、俺よりもきみに熱烈なんだから、あの写真欲しがるぜ?きっと。
それどころか、俺と同じように待ち受けにするだろうな」
『最悪』
「俺は個刃の趣味でそうしているだけだ』
『それが悪趣味って言ってるの!それならせめて、国永の寝ぼけた顔撮らせてよって言ってるのに。いつも先に起きる』
不満げな顔もなんだかたまらなくて、加虐心というのかこれは。
「仕方ないだろ。じじぃなんだから、俺も」
『国永はじじぃじゃないもん』
「こーら、きみが"じじぃ"なんて言ったら、歌仙が一日寝込むことになるぜ?それに三日月も口癖のように言ってるのに、俺はどうしてダメなんだ?」
『な、…それはっ、その』
俺に口負かせられ、口籠るきみさえどうにかしたくなる。
きみが俺に向けた感情に、俺は気付かないふりできみが気付かないことを楽しむ。
交わっちゃいけない、俺は所詮物で、きみは人だから。
「撮ってもいいぜ?」
『え?ほんと??』
端末をむけたきみに、驚きの変顔をしてやる。
「どうだ、よく撮れたか?」
画面を覗き込めば、げんなりと面白くなさそうな顔。
『国永、そういうことじゃない』
「どういうことだよ」
せっかく笑わせようとしたのに。
『まぁでも、いい写真だから待ち受けにしようかな』
「この写真をかい?」
『こんな顔の国永見てたら、なんだか、どんな時でも元気がでそうだから』
画面から視線をあげるきみ。