第2章 に
「偉く過保護じゃないか」
「そりゃ、アンタがこの本丸の末っ子だからだよ」
「驚きだな、俺は平安の産まれな筈だが」
「顕現したのは後だろ。人の身を得てからは俺の方が長い」
「どうだかな」
素直になれない俺のせいで、沈黙が続く。
「鶴丸、俺が言いたいのは負けるなってことじゃないよ。ただ、諦めないで欲しいだけなんだ。
そしてこれは、アンタのためじゃない。他でもない、主のためだ」
「…」
「わかってるだろ、主はまだ幼子だ。
主が物心着く頃にはもう両親はいなかったけど、俺たちはまだ一度も折れてない。
加えていうと、今回みたいな大怪我も俺たちはしたことがない。
演練は別だけど、それは俺たちが心掛けてきたからだ」
「…だからなんだ?」
「鶴丸にもそうあって欲しいってこと」
「加州、俺たちは刀だぜ?代えもきく。主というより、俺たちが重きをおくべきは、歴史を守ることだろ?」
「言葉を返すようだけど、折れたらそれこそ歴史すら守れないんだよ?」
…折れても折れなくても、守れないものなんてザラにある。
現に俺は折れていないと言うのに、誰1人守れていない。気付くと手をすり抜けていく。
「…君にはわからないだろうな」
「え?」
「分かってほしくもない」
こんな痛みも、嘆きも苦しみも、誰にも理解されたくない。
知らないままでいられるのなら、それでいい。その方がいいんだ。
「…悪いが今は1人にしてくれ、これでも結構体にきてるみたいなんだ」
「鶴丸…」
「俺は、何を言われても、今後もこうして戦うぜ。嫌ならつかうな、君が編成を考えてるなら、俺をどうするのも君の自由だろ。…ちがうか?」
「そう…だね。よく考えてみるよ、アンタのこと。巴や、静に聞いて」
「好きにすればいい」
売り言葉に買い言葉、というか、俺のは押し売りみたいなものだ。
…ごめんな、加州。
白状するならば、別に俺は検非違使と対峙したとき、諦めたわけじゃない。
ただほんの少し、この輪廻から外れたら、楽になれるんじゃないかと思ったんだ。
…楽に、なりたかったんだ。
スッと立ち上がり、扉が閉まる音がする。
必死で目を閉じて、瞼の裏に浮かぶ表情をなんとか打ち消す。
このまま、目が覚めなければいいと思った。
朝なんて来ないで、夜が続けばいいと思った。