第10章 じゅう
《……行っちゃった》
想像主である国永が消えたことで、鮮明だった私の本丸であったものたちが消える。
幻想でしかないこと、まざまざと押し付けられるみたいで、苦しい。
嫌味みたいに、どこまで続く白に、最後の最後まで私の世界があなたの色だったことを知る。
ぽんっと後ろから肩を叩かれる。
「よかったのか?」
《………うん。あの子がもらえなかったもの、持ってきちゃったし》
ポケットから取り出したのは、丁寧に綴られたあなたからの手紙。
《これは、私がもらえなかったはずのもの。誰かのものを横取りなんて、虹(はし)の向こうは地獄かもしれない》
「地獄でも共に行こう。主、俺は山姥を切った本歌を模してつくられた写しだぞ」
《ふっ、》
「不足はないだろ」
「…ちょっと、なーに、2人で盛り上がってんの」
《姫ちゃん。ごめんね、着いてきてくれてありがと》
「ごめんは余計。いいもん見せてもらったし。いい刀じゃん」
《でしょ。私の、初恋の刀。…姫ちゃん》
「あぁ、わかってる。いわなくていい、俺もそのうち行くから」
《いつか会えるかな》
「さぁ…会えんじゃない?」
《そっか。じゃあ、…またね》
さよならを伝えたのは私なのに、先に旅だった姫ちゃん。
大好きなあなたの、一文字を持つ刀。
もしいつか、私が生まれ変わったら。
そんなたられば、今は置いていこう。
「行くか」
《うん》
初期刀の後ろを歩く。
広い背中。
あなたを想えばよかったと、ダサい私が顔を出した。
伝えるのはやめておこう。
…でも。
《山姥切国広》
「どうした、改まって」
《これから行く先が地獄でも、天国でも。そしてその世界の終わりにまた現世が続くんだとしても、…私が審神者である限り、何度でも》
意を決したのに、あなたの人差し指が唇に触れる。
「柄じゃないんだがな、こんなこと。
……俺は、アイツみたいにあんたに縛られるわけにはいかないんだ。
俺が着いていくって決めたんだ、あんたに。
この意味わかるか?」
《意味?》
「あんたと違って、俺は優しくないからな。答え合わせなんてしてやらないぞ」
《……ふふっ、わかった。まぁ、急ぐ旅でもないしね》
二つの歩幅が揃う。答え合わせなんかしなくても、それが優しさだってわかった。