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逃避行

第2章 閉じ込められた生活




それから甚爾さんが部屋を訪れる回数が増えていった。最初はお互いのことを少しずつ知るだけだったけれど、最近は日常のことも話すようになっていた。私の生活の全てがこの部屋の中にあるのに対して、甚爾さんの話す外の世界の出来事は新鮮で、どこか遠くて、でも同時にとても魅力的だった。

「今日も来てくれたんですね。」

私は甚爾さんを迎えるのが待ち遠しくなっていた。

「まぁな、ちょっと顔が見たくなったんだよ。」



甚爾さんは軽く笑って、椅子に腰掛けた。



「最近、外は暖かくなってきたぞ。外の風が気持ちいい季節だな。」


「もうそんな季節だったんだ。」


私はぼんやりと窓の外を眺めた。直哉さんの部屋には窓があっても外を見ることができない。それがまるで私の今の状況を映しているようで、どこか悲しかった。



「桜潤は、外に出たらまず何がしたい?」


甚爾さんは優しい声で聞いてきた。その質問に私は少し考えて、でもすぐに答えが見つからなかった。


「うーん…自由に歩いてみたいかな。どこか遠くに行けるとかじゃなくて、ただ自分の足で好きな場所に行きたい。」本当にしたいことなんて、長い間考えたこともなかった。



「そうか。それならまずは散歩だな。ゆっくり歩いて、好きなだけ風を感じてみるといい。」


甚爾さんは楽しそうに言ってくれた。彼の言葉を聞いていると、なんだか本当にできるんじゃないかって思えてくる。


「でも、どうして私にそんな風に接してくれるんですか? 甚爾さんには何も返せないのに…。」


私はふと疑問に思ったことを口にした。



甚爾さんは少し黙ってから、真剣な顔で答えてくれた。



「俺も昔は不自由だったからな。お前がここで苦しんでいるのを見てると、なんとかしてやりたくなるんだよ。」



その言葉に心が少し揺れた。私を理解してくれる人がいる、その事実が嬉しくて、でも同時に怖くもあった。もし甚爾さんに依存してしまったら?直哉くんはどうなるの?彼を見捨てることが出来るの?無事に彼から逃げれるの?



「でも、俺は無理強いはしないよ。桜潤が決めることだ。どうしたいか、何をしたいか、それはお前の自由だ。」


甚爾さんの言葉はいつもまっすぐで、私の心に深く刺さった。








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