第2章 アイマスク
サチは毎朝6時には起きていた。
和樹が仕事に出るのは8時過ぎだったからだ。
和樹の職場まで車で10分くらいだった。
8時に出ても十分に間に合ったのである。
サチは毎朝コーヒーを入れていた。
マメから挽いてドリップで落とすのである。
和樹は朝食を食べなかった。
サチも同じく朝食は食べなかったのだ。
和樹はサチの入れてくれたコーヒーを飲みながら新聞を読むのを日課にしていた。
サチはコーヒーを飲みながらテレビで朝のニュースを見ている。
二人の傍らには愛犬のマロンが座っていた。
猫たちは、自由に好きな場所で寝ている。
8時ちょっとすぎた頃、和樹が仕事に行く支度を始めた。
和樹の勤める会社の部署は研究所だった。
服装は自由である。
今朝の和樹の服装はジーンズに白いパーカーだった。
玄関先でサチが和樹を見送る。
「気を付けていってらっしゃい」
「うん、気を付けて行ってくる」
そう二人は言葉を交わすとフレンチキスをしてハグをした。
この“気を付けて”という言葉を言うのと言わないのではかなりの差があった。