第4章 Peace of mind【桜井 景和/タイクーン】
「いいよ」
捲ろうとしていた袖を下ろし、彼女はジャケットを羽織って、鞄の中を確認する。
「え、いいの?」
「別に。冷やかされるのが面倒で黙ってるだけだから。隠してるつもりもないし」
そうなんだ。
2人だけの秘密だと舞い上がっていたのは自分だけか。
「行こ、景和」
玄関の鍵を掛け、彼女は手を差し出してくる。
「うん」
キュッと手を握り、景和は彼女と歩き出す。
一人前に仕事ができて、彼女と肩を並べられるようになったなら。
誰にも憚ることなく、彼女は自分の恋人なのだと、言える日が来るだろう。
その日まで、もう少しだけ、この秘密は2人のもののまま……。
《 F i n ... 》