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七十二候

第82章 及川編#7


 親の説得は3日かかった。それは親戚が集まっての会議となった。だけど、俺の粘り勝ちだった。
 国籍にこだわりはなく、ただ、バレーボールをするための手段にすぎないし、将来の状況次第ではまた日本の国籍に戻る可能性だってある。つまり、俺自身は何も変わらないのだ。宮城出身で牛乳パンが好きで、バレーボールと共に生きるイケメンである事実は変わらない。
 次は、萌の番だ。4年ぶりの感動の再会と同時に、俺は2度目の別れを提案する。萌を泣かせるのはきっと、2回目だ。
 フランスへの留学準備をしている最中だという萌の家に行くと、萌が玄関で迎えてくれた。
「めっちゃ筋肉ついてる……」
「だろー? 鍛えてるからね。萌は何ていうか、変わらないね」
「わかる。変わってない」
 そうは言ったものの、萌はずいぶん顔つきが大人になっていた。写真やビデオ通話では分からない発見だった。この4年間でいろんな経験をしたんだろうな。
 可愛さも健在だけど、すごく綺麗になったなと思った。

「萌が海外か……。大きくなったな」
「お母ちゃんか」
 なんて冗談を言ってみたけど、どう切り出そうか迷っていたところ、萌が話を振ってくれた。
「家族に用があったって言ってたけど、大丈夫?」
「そのことなんだけど……アルゼンチンに帰化することにした」
 言ってしまった。重々しくならないようにさりげなく。そのくらいライトに捉えて欲しかった。だけどそれは失敗に終わった。
 この驚いて固まる萌を見るのは2回目だ。いや、告白したときもか。そんなことをぼんやり考えていた。

「驚かせちゃったよね……ごめん……」
「……帰化って、アルゼンチン人になる……ってことだよね……」
「うん……ごめん。オリンピックでアルゼンチン代表になって、それで日本を倒したいんだ」
 萌の目を見て話せなかった。萌がどんな顔をしているのか見るのが怖かった。でも、そんなんじゃだめだ。笑って、別れたい。
「だから、萌。別れたい」
 萌。俺、明るく言えたから。萌も、「分かった!」って、明るく返して。
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