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七十二候

第1章 プロローグ


 2013年春。私と幼馴染である及川徹は高校を卒業して、それぞれの進む道へ歩き出した。
 徹はバレーの道。幼少期から憧れ、そして師事を懇願したアルゼンチン人の監督が率いるCAサン・フアンへ入団する。宮城から出たことのない少年が選択する道にしてはあまりにも大胆で勇気のあることだ。
 私は音楽の道。クラリネットのプロを夢見て、東京の音大へ入学する。
 私たちは幼馴染であり、恋人同士でもあった。付き合い始めたのは高校3年生の夏のこと。それから1年もせずに恋人は日本の裏側へ飛び立ち、超遠距離恋愛となった。
 大学在学中は頻繁に連絡を取り合い、精神的に繋がっていられた。寂しくないわけではないけど、とにかくやらなくてはならないことがたくさんあり、気が付くと1日が終わっているような日々だった。

 徹と再会できたのは、私が大学を卒業した頃。私がフランスへ留学する前のこと。感動の再会になるはずだった。
 しかし、彼の口から放たれた言葉は「アルゼンチンへ帰化する」だった。彼が夢を叶えるには、必要な選択だった。
 アルゼンチンに渡るとき、成果を出して答えを見つけるまでは日本には帰らないと言っていたが、こんな形で日本に戻ってくるとは思わなかった。こんなに長く遠距離恋愛をしていたのに、更に彼は私から遠のいていく。
 だけど家族内で大揉めして、それでも徹を育てた家族が許してくれた。私に止める筋合いはないし、夢を追う徹の味方でいたい。

 そして私は早く徹のように一人前になりたい。そうじゃないと、徹の隣にいる資格がないと思っていた。
 私は彼を小さい頃から尊敬している。とくかくすごいやつだ。何も取柄のない私では、彼に相応しくないんだ。

「今度は私が成果を出して答えを見るける番だから」
 プロになって徹の隣に堂々と立っていられるような一人前になるまで、待ってて。
 その先で、私たちは住む場所は違うけど、きっと二人が交わることのできる未来があることを信じて、私はフランスへ旅立った。

 2019年。私は日本に戻る。自分なりに留学の意義を感じられた日々だったと思う。
 それも徹の支えなしにはやり遂げられなった。そしてここまで私に投資してくれた両親には感謝しかない。

 私は、プロになる。たくさんの人に音楽を届け、恩返しをしていく。
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