第56章 天竜人と8人目の新たな仲間
「……もういいわね」
アユナが手を離すと、男の体を包んでいた水もなくなった。それと共に、体の傷もなくなる。
「……あ……」
男は自分の体を見下ろした。傷はなくなり、疲れて重かったはずの体は楽になった。
「……ねえ」
ミーウは体を少し屈めた。
「あなた……どこかに行く当てはあるの?」
「行く当て?」
男はミーウを見た。
(帰る場所なんて、そんなもの……)
「……ない」
男は俯いて答えた。
「そう……それなら……」
ミーウは微笑んで、彼へと手を伸ばした。
「わたしたちと……一緒に来ない?」
「え……」
男は目を瞬かせた。
「わたしたちの……仲間にならない?」
「……仲間?」
ーそれはつまり……。
「……奴隷として……ですか?」
「え?」
ミーウは目を大きく見開いて丸くさせた。
「そんなわけないじゃない」
ミーウは真剣な瞳で男と目を合わせた。
「あなたはもう、奴隷じゃないのよ。自由なの」
「自由……?」
男は耳を疑った。ーー奴隷になってから、ずっと求めていた。何もしてないのに……ある日、突然どこの誰だか知らない人の奴隷になっていた。そこから、いろんな貴族を転々とした。そして、気が付いたら天竜人の奴隷になっていた。もう2度と、自分の意思で決めて行動をすることができる日が来るなんてないと思っていた。それなのに……。