第34章 月夜の悪戯の魔法
キラーは船から飛び降り、反対側にある水神海賊団の船へと急いだ。
「アユナ……」
ー最悪な事態が頭をよぎる。
(頼む、無事でいてくれ……)
キラーは全速力で走った。昨日と同じように、街を横切って反対の浜辺に到着した。しかし、船の上にアユナの気配はない。
「……どこ行った?」
すると、海風に乗って微かに歌声が聞こえてきた。キラーは声が聞こえる方へと走った。
「アユナ……!」
月の光のみが照らす暗い海の浜辺で、名前の主は昨日と同様に歌を歌っていた。ーーキラーも好きな曲だ。アユナの声音に合っていて、とても心地よい。
「……」
(無事でよかった)
キラーは歌が終わるまで、アユナをずっと見つめていた。すると……。
「な……」
キラーの目にはアユナが人魚になり、岩の上に座っている姿が映ったように見えた。アユナの歌声に反応するように、少しばかり浮かんでいた雲が取り払われ、月が更に光を増したように見えた。さらに、その下に座っているアユナが泡になって、海の中に消えてしまう光景が頭の中に浮かんだ。
ー行くな。
キラーは持ってきた袋を浜辺に放り投げ、靴も脱がずに海に入った。
後ろからアユナを抱き留め、捕らえることのできた腕の中の存在にほっとして、キラーは胸を撫で下ろした。