第11章 朝帰り
タカシはよろめきながら私の身体から離れた。
私は、畳に落ちているショーツを拾い上げるとそれも履かずに手で持ち、小さな自分のトートバッグを持って、急いでタカシの部屋を出た。
「待てよ!!真帆っ!!行くな!!」
背後からタカシのそう叫ぶ声が聞こえてくる。
私は、初めて見る工場の中を訳も分からずに階段を降り、微かな記憶を頼りにその工場を出た。
外に出ると眩しい夏の日の光が私を照らした。
私は、一瞬眩しくて足を止めてしまったのだ。
頭の中はまだ睡眠薬が効いていたらしくぼんやりとしていた。
ここはどこだろう。
そう思っていた。
自宅に帰らなければいけないと思った。
すると、私は過去にこの近くまで用事があり車で来ていたことに気が付いた。
何となく、見覚えのある道を歩いていると車の走行している大きな道に出た。
この道は一度、車で走ったことがあった。
私は、小さなトートバッグを持ち、フラフラとしながらそのちょっと大きな通りを歩いてゆく。
歩きながら私は昨夜の事を思い出していた。
そう、タカシと話をしていたのだ。
あの工場の一角に部屋を借りた経緯を聞いていた。
「俺さ、借金があってさ、それでマンションの家賃も払えなくなってさ、それで困ってた時に佐藤さんからウチの工場の部屋が空いてるからそこに引っ越してこいよ…て言われたんだよ…」
タカシは居酒屋みゆきで賭け麻雀をしていて、かなりの借金があったらしい。
それに、今やっている建設業の仕事も余り上手くいっていないと言っていたのだ。