第10章 ある夜
こうして、今夜もぐっすりと眠れるだろうと私は思っていた。
そして、私のシングルベッドで直樹と一緒に眠ることにして、部屋の電気も消して豆球だけを点けていた。
小柄な私たちはシングルベッドでも余るくらいに一緒に眠ることができたのだ。
直樹の寝息が聞こえてきた時だった。
私はベッドから這い出して夏服のワンピースに着替えた。
そして、眠っている直樹を起こさないようにしてソッと家を出た。
私は、多分タカシは居酒屋みゆきの前にいるに違いないと思っていた。
その居酒屋みゆきに私は速足に歩いてゆく。
居酒屋みゆきまでは歩いて2~3分で着く。
やはり、私の感は当たっていたのだ。
タカシが原チャリスクーターの前に座って私の事を待っていた。
「タカシ!!」
私はそう叫んでしまった。
タカシはとても嬉しそうに私を見ている。
「遅かったじゃん…」
「まさか、店の前にいるとは思わなかったわ…」
本当に、私はタカシが店の前で待っているとは思っていなかった。
単なる感で居酒屋みゆきに行ってみたのだ。
タカシは私に原チャリのヘルメットをかぶせた。
「さ、バイクに乗れよ…」
「分かったわ…」
私はバイクの前の席に座り、タカシは私の身体を前から抱きかかえるようにしてバイクを走らせた。
バイクは暗闇の中の田舎道を走ってゆく。
どこに行くのか私は分からないでいた。
「タカシ、どこに行くの?」
「引っ越した俺の家だよ…」
私はそれが分からないままタカシのバイクに乗っていた。
暫くバイクは田舎の暗い細道を走っていった。
そして、とある工場の様なところで止まったのだ。
その工場は居酒屋みゆきの常連客である佐藤敏孝が借りている工場だった。
工場の中には6畳程の住居スペースがあった。
そこにタカシは引っ越してきたのだった。
私はそれとは知らずにタカシに手を引かれながら工場の中を通りその部屋に入って行った。