第1章 プロローグ
人の思い出の記憶とはなんと突然思い浮かぶのだろうか。
思い出と香りは実に深い関係があると私は思っている。
タカシと初めて会ったのはいつだっただろう。
夏の香りが漂う初夏だったような気もするが、実際の記憶はとても曖昧なものだ。
そう、あれはまだ、私、向井真帆が40歳になった時の頃のことだ。
今から8年前の話になる。
私は当時離婚したばかりだった。
人生の折り返し地点である40歳で離婚を経験した。
前夫の向井翔とは財産分与をしていたので、当面仕事をしなくても食べていける状態だった。
だが、いくら財産分与をしたからと言って、1千万くらいの金額では数年で預金はゼロになるだろう。
しかし、その当時は離婚したてで、何も考えることができなかった。
私の両親はすでに他界しており、この世にはもういなかった。
離婚したことを知れば、両親は悲しんだに違いない。
翔とは金銭面でお互いの価値観が合わず、おまけにセックスレス状態だったので離婚することになった。
日本人の約40%の夫婦がセックスレスだと言うのを何かで読んだ気がした。
私たち夫婦も御多分に漏れず同じなのだと思ったのだ。
私たち夫婦には子供が居なかったので、離婚は容易くできてしまったのだ。
私は、離婚した後も、向井姓を名乗っていた。
それは、銀行口座の名義や運転免許証の名義、その他諸々の名義変更をするのが面倒だったので、役所で1枚書類を提出して向井姓を名乗っている。
その当時、私は一人暮らしを始めたばかりだった。