【ブルーロック】HEALER【ミヒャエル・カイザー】
第1章 女嫌いのkisが財布を拾ってくれた日本人に好意を抱く話1
―――東京、羽田空港。
乗る便まではあと二時間。空いていた椅子に背を預け、しばらく天井をボーっと眺めていた。足を伸ばす拍子に床に置いていた紙袋が当たる。しばらく考えて、今日中に食べてと言う伝言が引っかかり紙袋を引っ張ってきて中を覗いた。入っていたのはホット用のカップに入った冷めきったコーヒーとサンドウィッチ。
(アイツ馬鹿だろ、めちゃくちゃ生ものじゃねぇか)
サンドウィッチには手書きらしき付箋が貼ってある。引き剥がすと、歪なドイツ語で糖質、脂質、カロリーとタンパク質に塩分、使った食材などがコーヒーとサンドウィッチとそれぞれ書かれていた。最後に一言、同じくドイツ語で〝すごい、シュートだった! また日本に来て下さい!〟とおそらく通訳機を使ったであろう言葉遣いで書かれている。コーヒーを空いていた隣の椅子に置き、サンドウィッチを取り出す。それと一緒に、隠れていたもう一つの紙切れが花びらが散るみたいにひらひらと床に落ちる。花びらにしては、レシートにしてはやけに青すぎる。
見覚えのある青い紙切れの正体は、表にしなくても、裏面ですぐに分かった。
俺の名前が刻まれた、関係者用の招待チケット。その場に放っておく訳にもいかず、前かがみになって拾い上げた。
(俺にわざわざ返すなんて、性格悪すぎだろ)
表にした瞬間、心臓が止まるような感覚に襲われた。まるで現実世界の感覚じゃない、夢を見ているような、そんな感覚だ。どう考えてもありえなかったからだ。
俺の名前が刻まれた関係者用の招待チケットの入場券、一生刻まれることも見ることもないであろう【使用済み】と書かれた赤いインクが記されている。まさかと思った。何故ならあの女は世一の招待チケットを持っていた。これを使う必要性がない。一瞬偽造かと疑ったが、よく見れば使用済みの切れ込みがある。
(あいつ、世一のを使わなかったのか?)
俺に惚れ込んで世一から俺に目移りしたか。そう邪悪な言い訳を付けたかった。そうでもしないと、何故だか負けた気分がしたからだ。俺は意味もなくマネージャーにメールを送った。