【ブルーロック】HEALER【ミヒャエル・カイザー】
第1章 女嫌いのkisが財布を拾ってくれた日本人に好意を抱く話1
観客が会場を後にした深夜、会場をひとり抜け出し俺はひと足早く空港へと向かう。会場を出て、少し歩いた頃「すいません!」と背後から声を掛けられた。
「朝、会った方ですよね。ミヒャエルさん......」
声を掛けて来たのは、今朝財布を拾った女だった。
「なんでこんな時間までいる」
「あなたのことずっと待ってました」
そう言って差し出したのはカフェのロゴマークが描かれた紙袋。指先は今朝よりも赤く染まり、暗い中でも白い息遣いがハッキリと見える。俺が来るまで外で待ってたんだろう。
俺なんか待たず、帰ればいいものを―――。
「チケットくれたお礼です。関係者席初めて座ったんですけど、結構いい席でびっくりしました」
「いらねーよ」
「え!? ......わざわざお台場からここまで持ってきたのに」
わざとらしく、女はそう言った。ほらな、こうやって良かれと思った欲を押し付けて善人を装ってるんだ。思い通りにならなかったら都合よく言い訳を付ける。それにこっちは頼んでもいないのに。お前のエゴを、お前の欲求を満たす為に、この俺を使うんじゃねぇよ。
「知らねぇよ、それに知らない異国の人間から食品を貰って食うなんてプロがする事じゃねぇ」
「じゃあ捨ててもいいです。ただ捨てるなら私の見えないところで捨ててくださいね」
歩き出そうとする俺の前に女が立ちはだかり、そう言って女は再び紙袋を押し付ける。コイツと会った時、自分で言った言葉を思い出す。
〝「いらない、渡す人間がいないからな。いらないなら捨てろ」〟
(…......めんどくせぇな)
頭をかきむしると俺は観念して手を差し出した。
「私、ここのお台場のカフェで働いているんですよ、だから今度遊びに来て下さいね。サービスしときます」
紙袋を指差しながら嬉しそうに笑う。行くわけねーだろ、さっさと寄こせ!と、吐き捨てながら俺は紙袋を受け取って早歩きでその場を去った。
「空港の待ち時間に食べて下さい〜! あ、今日中に食べてくださいね!」
背後でデカいひとりごとを聞き流し、俺はひと足先に空港へ向かった。