【ブルーロック】HEALER【ミヒャエル・カイザー】
第1章 女嫌いのkisが財布を拾ってくれた日本人に好意を抱く話1
ドイツと日本の紙幣と硬貨。誰に渡すこともない、この後の試合の関係者用の招待チケットが一枚。財布の中身は、取られていなかった。
意味が分からなかった。コイツ、じゃあ何のために俺に財布を届けたんだ。善人ぶってスったわけじゃないのか......? 俺は疑問の目を向けた。
「えっと...中身? 中身取ってないよ」
相手は何かを悟ったのかひらひらと両手を顔の横で靡かせる。指先は、寒いせいか少し赤く染まっていた。この女、本当に俺が落とした財布を拾っただけらしい。…………まぁ、結局取られ用が取られまいが俺には関係ない。
「.....................疑って悪かった。この町を歩くのは初めてなんだ」
「うんうん、そうなんだ! 全然大丈夫、気にしてない」
ニコニコと疑いをかけられたにも関わらず、女は不機嫌になる様子もなく愛想よく相槌を打った。本当に日本って馬鹿な国だ。平和ボケしてやがる。きっとこの女も、何の苦労もなくここまで生きてきたんだろうな。
肌も白い、黒くて長い髪は艶が出てて、服は着こんでいるが高級感のあるものだ。―――昔の俺とは大違いだ。きっと高い壺を扱うみたいに、周りから大事にされてきたに違いない。貰うだけ貰って、いらなくなったらその服も、鞄も、靴も、何の躊躇なく捨てるんだろう。じわじわと、過去の憎悪が押し寄せてくる。これだから日本は嫌いなんだ、毎回毎回俺に嫌な記憶を思い出させてくる。むしゃくしゃして「俺はもう行く」と、吐き捨てまた一歩止まった。
「............いや、待って、やっぱりこれはやる。お前がこれを拾ったのは事実だ」
なにを血迷ったのか。ただこんな奴に仮を作るのはどうも胸糞悪かったのか、俺は振り返って再び財布を取り出し、財布に入っていた紙幣をドイツと日本のが混ざってるのも気にせずに無雑作に掴んで女に押し付けた。どうせなら結果的にスリをさせたことにすればいい。これで俺の気が晴れる。胸糞悪い借りもなくなる。