【ブルーロック】HEALER【ミヒャエル・カイザー】
第1章 女嫌いのkisが財布を拾ってくれた日本人に好意を抱く話1
日本には、ここ数年よく試合で出向く機会が多くなった。ブルーロックの時よりも日本語は断然上達した。上達の速さに自分のもう一つの才能を感じて少しだけ気分が良かった。
けれどそれ以外には特に思い入れもない平凡な国だ。強いて言えば日本食はまあまあ悪くはない。それにアジア人は皆俺より弱そうな奴ばかりだ。背も低い、色気もねぇ、子供っぽい、アジア人、日本人。
物欲もない。近くの人混みや店にも興味はない。俺にはサッカーがあればそれでいい。むさ苦しいバス内の空気を避け、外の空気を吸いたくてバス移動の予定を俺は抜け出して最寄りの駅までタクシーで向かう。駅付近で降りてから黒い帽子とマスクを身に付けて早朝の会場の裏口へと黙々と歩いた。日本は思っていたよりも、まだかなり寒い。少しだけバス移動を抜け出したことを後悔しながらマフラーに顔を埋めてアップがてら歩幅を広げながら速足で向かった。
歩いている途中、当然肩を掴まれた。振り返ると女だった。白い息を吐きながら胸に手を押さえ、大きく息を整えながら、何も言わずに差し出されたのは俺の財布だ。
(ッチ、スリかよ―――)
堂々としやがって。女だからって許されると思ってるのか?
正直言って女は嫌いだ。感情的で、都合が良くて、自分だけが良ければアイツらはそれでいいんだ。どいつもこいつも、嫌なこと思い出させやがって腹が立つ。
渡された財布を荒々しく、奪い取るように受け取った。スッたくせにおどおどしやがって、余計に腹が立った。最悪な気分だ。それに女は控えめに会釈をすると何事もなかったかのようにその場を後にしようとする。
「おい待てよ、俺を観光客だと思って調子に乗ったか?」
女は目を見開いた。俺が日本語を喋れるなんて思ってもいなかったに違いない。その腕を引いて逃げようとした女を引き止める。観光客で何もできないからって舐めてんだろ。俺は目の前で財布の中身を確認した。いっそのこと、ここで公開処刑にしてやる。
「.........」
財布の中は、―――空っぽではなかった。