【ブルーロック】HEALER【ミヒャエル・カイザー】
第1章 女嫌いのkisが財布を拾ってくれた日本人に好意を抱く話1
「だったら私が一番に使っちゃえって思っただけです。言えなくてすみません。いらないって言ってたので、わざわざいう必要もないと思ったんです。でも、なんか....直感ですけど、言った方がいいなって思ったんです」
―――あの時、あんまり嬉しそうに渡してなかったので。
(そりゃぁ、そうだろうな)
正直、試合のたびに渡されて、あるだけでも目障りだった。残ったチケットを見るたびに俺は所詮一人なんだと思い知らされる。俺の過去の行いを知れば、さすがにファンも離れていくだろう。ずっとサッカーだけあれば、俺は生きていくのに困らないし、サッカーの為に生きれば、昔よりいい人生が送れる。
「あ...えっと、ごめんなさい。なんかいろいろ勝手に決めつけて......。渡す時実は受け取ってもらうのに必死で厭味ったらしく言ったりとか私」
「俺は望まれて生まれた訳じゃない」
女の顔が曇って行くのが分かった。こんなこと、言う予定じゃなかった。食べ終わったサンドウィッチを畳みながら、トレーに置く。
「だからお前の言う通り、俺はひとりだ。誘う奴なんて誰もいない。ひとりでサッカーの為だけに生きていくと決めた。母は俺を捨て、生きる価値のないクソと罵って殴って来る親父だ。生きるために法律だって犯したこともある。 正直、俺は報われるべきではない人間側だ。だからサッカーで勝つこと以外の物欲はない。それなのに、俺が一生使うことがないと思っていた、俺の名前が入ったチケットが使用済みになっているのを見て、俺は自分自身に初めて生きる価値を感じた。360°から浴びる数万人の歓声や視線よりも遥かにだ」
俺は、この理由が知りたい。いや、もう理由なんて、答えなんてとっくの最初に出ているのかもしれない。俺は多分、知らなかっただけなのか。
あの時女がクソジジイから罵声を浴びせられた時も、コーヒを掛けられた時にこみあげて来た怒りの感情の理由も、勝利以外に欲しいと思ったこの感情を。俺は初めて理解したんだ。