第1章 【伏黒恵】あなたに聞きたいことがある
「おい、伏黒!!ふーしーぐーろー!!」
身体を揺さぶられ、夢の中から覚醒する。
ゆっくりと目を開けると目の前には虎杖の姿があった。
「いた、どり……?」
「珍しいな、お前がこんな時間まで寝てるなんて。遅刻してんぞ」
「……まじかよ」
虎杖の言葉に時計を見れば時刻は10時を回っていた。
確かにこれは遅刻だ。
大遅刻だ。
深いため息を吐く伏黒に、虎杖はどこか楽しそうに笑っている。
「いい夢見てたのか?」
「は?」
「すごい幸せそうな顔をしていたからさ」
「あー……忘れた」
「わかる!!夢ってすぐ忘れるよな、なんでだろ」
いい夢だったことに違いはないのだが、内容が思い出せない。
まだ寝ぼけている頭を起こすために首を振ってベッドから降りる。
どんな夢だったかは忘れた。
だけど、胸の内はどこか温かい。
「虎杖」
「んー?」
「たぶん俺の親父、すげえクズ野郎だったと思う」
「え、何急に。どうした」
「なんでもねえ」
なぜか、ふいに口からそう出た。
伏黒自身もなぜその言葉が出たのかわからなかったが、無意識のうちにでたならば多分そうなんだろうな、と思う事にした。
今、アンタに聞きたいことがある。
アンタは今どこで何をしているんだろうな。
窓から覗く空はどこまでも青く、どこまでも澄んでいた。